今話題の『デリー凶悪事件』をNetflixで観たので、簡単にあらすじと感じたことを書いていこうと思います。
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『デリー凶悪事件』とは?
2012年12月に起きた悲惨な集団レイプ事件をベースに当時の警察の捜査を通じてインド社会や政治体制の問題を問いかける連続ドラマです。
主人公の女性警察署長を中心に警察の捜査風景、警察上層部と政治の軋轢、地元メディアのいざこざ、地元住民の反感などを描きます。
日本でも有名になったレイプ事件2012年のレイプ事件
2012年12月16日、23歳の女子学生は28歳の恋人とバスで帰宅をする途中にバス内で6人の男性に集団レイプや暴行をうけました。
バスから男性と共に投げ捨てられたのち、警察により発見され病院に搬送され治療を受けましたが12月29日に亡くなってしまいました。
このニュースは日本を含め世界各地で大きく報道され、インドだけでなく世界を震撼させました。またこの事件によって「インドはレイプ大国である」というイメージをさらに強固にすることになりました。
特に地方ではレイプ事件が少なくないインドでは、たびたびとんでもないレイプのニュースが報道されています。
法律的には禁じられていますが、幼女婚などを容認する文化のある地方では5〜6歳程度の幼女のレイプ事件もありたびたび問題になっています。
インド政府・警察は国を挙げてそういう事件は減らしたいものの、表沙汰になっている事件はごく一部で大幅に減らすことは難しいのが現状です。
なぜインドではレイプが多いのか
貧富の差による考え方の違い
インドは貧富の差が激しく、裕福層・中間層と貧困層ではものの考え方や生活が大きく違います。さらに都市部の裕福層なのか、都市部の貧困層なのか、地方の裕福層なのか、地方の貧困層なのかによっても考え方は大きく変わってきます。
トイレ一つを切り取っても大きな違いがあります。
日本では当たり前のように水洗式トイレが主流で、各家庭にトイレは一つあるものです。当然インドでも都市部では貧困層の家庭にも水洗式トイレ(水洗式じゃなくても家にトイレはある)があることが当たり前になっています。
しかし地方では「神様のいる神聖な家の中に、穢れの象徴であるトイレを設置したくない」とトイレを設置しない家庭も少なくありません。地方部でも裕福層の家庭にはトイレはありますが、中間層・貧困層ではトイレを家に設置していないケースが多いです。
私もその話を聞いたときに「きれいに保てばよいのでは?」と思いましたが、トイレの故障や詰まること・またドッポン式だとタンクの交換などメンテナンスの頻度も少なくなく、修理業者や管理業者に依頼してもなかなか来てくれないなどの理由で導入に踏み込まない家庭もあります。
また家にトイレがない場合、家の外の草むらや影なので用を足す必要性がある為、女性のレイプ被害の原因の一つでもあると言われています。
インド北西のビハール州では2012年のレイプ被害は870件以上に上り、自宅のトイレを利用できる家庭は約15%にとどまりました。政府はレイプの防止・また衛生面の観点からトイレのない各家庭にトイレを提供する政策を打ち出しています。
生理に対する考え方
2018年に日本でも上映された『PAD MAN』は市販の生理用品が高いから利用できないという妻のために安価な生理用ナプキンを開発し、地方部の貧困女性のためのビジネスモデルを提案した男性の話を元に作られた映画です。
『PAD MAN』の中でも、「生理中の女性は穢れているので家の中で寝てはいけない」と言われて育った妻は家の外(テラスのような場所)で寝泊まりをしています。また、市販の生理用ナプキンは高価であるという理由で、汚れた布をナプキン代わりに使用しており、感染症などの原因にもなっています。また、生理用品が使えないことが理由で毎月学校を休む必要のある女子生徒も少なからず存在するのです。
反対に都市部に住む裕福な女性は当然のように市販の生理用ナプキンやその他の生理用品を利用し、生理期間も普段と変わらず家の中で生活をし、学校に通うこともできます。
西洋化している都市部と保守的な地方
デリーやムンバイ・チェンナイ・バンガロールなどの大都市は年々西洋化されていています。
特に裕福層では海外留学経験のある人も多く、インド的な価値観を持ってはいるもののリベラルな考え方をする人も多いです。さらにメイド文化などが根強く残っているため結婚や出産などのライブステージの変化があっても女性本人が望めば、社会で活躍し続けることも選択しやすいのです。
インドの会社で働いていた時に感じたのは女性の管理職の割合が日本より多いのかなと感じました。インドの女性管理職の割合は2018年に18.4%となっています。日本の7.3%と比べると倍以上の割合となっています。
しかし性別的な役割に捉われずに、社会で活躍できる女性はごく一部の恵まれた女性だけの話になってしまいます。都心部でも中間層の女性や貧困層の女性になると、「女性は家のことをして当然!」という文化や社会によって専業主婦にならざるをおえなかったり、子育てと両立しやすい仕事に就かざるをおえないケースも出てきます。また旦那や家族の男性もリベラルな考え方を知ってはいても自分とは無縁な考え方・価値観だと思っているため伝統的な家父長制度によって支配されている国枠に収まってしまうのです。
トイレや生理用ナプキンを切り取っただけでも、住んでいる地域や生活ランクによって大きく考え方が変わってしまう国インドでは、特に地方部の貧困層ではリベラルな価値観や考え方すら知らないケースも少なくありません。また知っていても「そういう考え方や文化がインドをダメにしていくんだ」と強く信じているケースも。
地方部ではいまだに、「女性は男性の持ち物」と考えている人も多く、家畜と同じように考えている人も少なからずいるのが現状です。
レイプを引き起こす社会要因
ニューデリー生まれの女性研究者のマドゥミタ・パンデイ氏は刑務所に足蹴く通いこれまで100人以上のレイプ犯にインタビューを繰り返しました。
彼女は、「レイプ犯の人たちは決して特殊な人というわけではなかった。ただ生い立ちや思考の方法が、彼らをそうさせただけだった」と主張しています。
インタビューした100人超の犯人のうち、ほとんどが十分な教育を受けずにドロップアウトした人々で、高校を卒業した人はほんのわずかだったと言います。性に関する話題がタブー視されており、性教育が学校で行われず、家庭でも教えないということも問題とされています。
インタビューをした犯人のほとんどが言い訳をしたり、自身の行動を正当化し、レイプがあったこと自体を否定しました。物乞いの5歳の女の子をレイプした罪で服役中の49歳の男は「彼女は処女ではないので誰とも結婚できない。出所したら彼女と結婚するつもりだ」と告白する男性もいたそうです。
女性の地位が低いこともレイプ問題の要因の一つともいわれています。
政府の統計によるとレイプ被害の94%は家族や知人ともいわれており、性暴力・レイプを告発することで自分のコミュニティでの疎外やさらなる虐待を恐れて告発できないケースも多いため、実際の被害数は分かっていません。
『デリー凶悪事件』の元ネタとなった2012年の事件では、加害者男性は「まともな女性なら夜9時には出歩かないだろう」「男に比べて女は強姦の原因になりやすい。男と女は平等ではない。良い女性は2割ぐらいだ」「彼女は黙ってレイプを許しておけばよかったんだ。事が済めば(バスから)降ろしていただろう」と証言しました。
更に、「女がすべきは家での家事だ。夜間にディスコやバーをうろついて間違った事をしたり間違った服装をすることではない」「教訓を教える権利がある」と証言したそうです。
この事件はリベラルな都市部の女性に対して、行き過ぎた保守的な価値観を持っている男が「なんてふしだらで悪い女性なんだ。こんな女にレイプしても誰も文句は言えない。」と考え、引き起こした事件でもあるのです。
インド政府は強姦犯に対する懲役刑を20年に倍増するなど、レイプ事件を減らす取り組みをしています。しかし表面化しないレイプ事件もあることなどから現実にはうまくいかない部分もあり、レイプ事件の撲滅にはまだまだ時間がかかってしまう事が現状です。
12億の人口を抱える巨象インドでは、今後の経済発展は貧困層の教育が鍵と言われております。
外国人旅行客である私たちができる自衛方法
インドは確かにレイプ大国として世界的に知れ渡っています。インドは素敵な文化や素敵な人が多い魅力的な国です。
日本ではまだ発展途上国なイメージが非常に強く、東京と変わらないような大都市があるにも関わらず、「インドっぽい」アイコニックさを持つ地方部ばかりがクローズアップされているため、日本ではまだ危険な発展途上国という印象はぬぐい切れません。
日本人として旅行をする私たちの行動一つで、日本でのインドの対するイメージが変わってしまう事もあるのです。私はインドは素敵な国だと思うので自分の軽率な行動のせいで、日本でインドの悪く思われないように気を付けています。
日本人の旅行者として私たちができる自衛方法は具体的に以下のようなことです。インドに行く際に参考にしてみてください。
・長ズボンをはく
・体のラインが出すぎる服を着ない
・知らない人に笑いかけない(誘っていると思われます)
・YES/NOをはっきり言う
・交通手段はあらかじめ調べる。
・バスにはあまり乗らない
・知らない人に勧められた飲み物は飲まない
・夜遅くに出歩かない
・インド国内の緊急連絡先を把握しておく
参考
India Bihar rapes ’caused by lack of toilets’
女性管理職についての国の取り組みや現状。企業に必要な対策とは?
Share of women in managerial positions India FY 2016-2019
インドのレイプ犯100人にインタビューした女性研究者「彼らはモンスターだと思っていた。でも…」